2019.08.05

行政におけるテクノロジーの導入と鎌倉移住による新たな働き方とは|橋本怜子さん対談インタビュー

鎌倉市役所に勤めながらテレワークを導入し新しい働き方をされている橋本さんとコデアル愛宕によるインタビュー対談です。

<橋本怜子 プロフィール>
2013年、総務省入省。2018年7月より鎌倉市行政経営部行政経営課担当課長として市役所内の働き方改革やテレワーク・RPA導入、行政のデジタル化を担当。働き方(生き方)の変革は10年来のライフテーマであり、鎌倉におけるテレワーク・ワーケーションの推進により、鎌倉で暮らし・働く、新しいワーク・ライフスタイルの発信も行っている。
<愛宕翔太 プロフィール>
働くをもっと自由に。コデアル株式会社CEO。即戦力の複業求人プラットフォーム「CODEAL( http://codeal.work )」運営。Twitter( @shotaatago  )、ブログ( https://note.mu/shotar ) では、複業やリモートワークを支援するためのノウハウや日々の思いを発信中。

テレワークによる在宅業務の一方で窓口対応の大切さも

愛宕)対談では、コデアルのビジョンである「働くをもっと自由に」を体現している人とお話したいという思いがありました。橋本さんは、いまどんな働き方をしていますか。

橋本)鎌倉に移住し、鎌倉市役所に勤めてます。市役所内で、働き方改革として職員のテレワーク導入などに取り組んでいます。7月22日から開始されるテレワーク・デイズ(※1)に、鎌倉市は実施団体・応援団体としてダブル登録をしています2019年のテレワーク・デイズの動画は鎌倉で撮影が行われました。

(※1)テレワーク・デイズ:総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府が、東京都および関係団体と連携し、2017年より、2020年東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、働き方改革の国民運動を展開。2019年は、2020年東京大会前の本番テストとして、7月22日(月)~9月6日(金)の約1カ月間を「テレワーク・デイズ2019」実施期間と設定し、テレワークの一斉実施を呼びかけている。

愛宕)コデアルは全員がリモートワークなので、テレワーク・デイズにも登録しました。橋本さんが働く中で感じていることはありますか?

橋本)公務員は、省庁や県、市ごとに採用が行われ、頻繁な異動がある中で、幅広い業務を担当します。例えば、市役所で採用されたら、福祉の窓口を担当した後、市の基本計画を定める企画業務に配属されるなど、異動によって全く違う性質の業務を担当します。転職に相当するほど多様な仕事を経験できるのは公務員の醍醐味である一方、適性や希望に関係なく配置が決まることもあり、個人の働き方の希望と合わない場合があります。もちろん、一般の企業でも希望部署に配属されないことはあると思いますが、自身の得意な分野や強みが活かせる部署で配置が決まると、より生き生きと、成果も出しながら働くことができるのではないかと感じています。それが結果的に行政のパフォーマンスの向上にもつながるのではないかと。また、働いてみて適性に気づくこともあると思うんですよね。実は私自身も、ずっと机に向き合うような細かい仕事は得意なほうだと思っていましたが、働いてから意外と苦手だということに気づきました(笑)

愛宕)公務員の場合、売上とか営業利益のような企業活動ではない中で、最適な配置とは何かという定義もむずかしいでしょうね。市役所の仕事といえば、コデアル株式会社のメンバーが民泊をはじめる際、職員の方が書類や準備について親切丁寧に対応してくださって、申請が無事に通ったということがありました。僕自身も24歳の頃、会社の登記をする際にすごく親切にしてもらいました。もちろん全て書類は紙でしたが(笑)

橋本)そうですね。今市役所で働いていますが、職員は優しい人が多い印象です。市民と直接触れ合う窓口や電話対応を最優先していますね。一方でオンライン化が遅れているという課題はあります。

愛宕)コデアルのサービスは、オンライン設定で顧客との接点はビデオ通話かチャット対応。ほぼメールや電話でのやりとりは発生しないのが当たり前になっています。とはいえ日本は高齢化社会で役所での対応の中で、窓口や紙の書類が重要になるのこともよくわかります。

橋本)そうですね。役所の場合、全ての人に対して法律や条例のもと、間違いなく説明する必要があることから、書類の説明書きも細かくなり複雑化してしまう現実があります。ただ、そうすると、市民の皆さんにはわかりにくくなりがちなので、より伝わりやすいレイアウトにするなど、工夫の余地がまだまだあると感じています。

また、わかりやすい案内は、オンラインだからこそ可能になる部分もあり、鎌倉市では、転入や転居など8つのライフイベントに関して、個人の状況に応じた手続き内容や必要な書類等の情報を、ウェブ・スマートフォン上で簡単な質問に答えるだけで案内する「鎌倉市くらしの手続きガイド」を、全国に先駆けて導入しました。

行政におけるテクノロジーの導入で2019年に間接業務の自動化へ

愛宕)橋本さんは、どんな仕事に取り組まれているのですか。

橋本)市役所の業務の効率化のため、業務改善やテレワーク・RPA(※2)の導入、「鎌倉市くらしの手続きガイド」の導入など行政のデジタル化を担当しています。最近ではキャッシュレスの導入も検討するなど、行政におけるテクノロジーの導入に取り組んでいます。行政では、少子高齢化を始めとする社会課題の増加により業務が増える中で、人員は増えていないことから、各現場で職員一人当たりの負担感が増しています。どうやって改善のタネをみつけるのかに悩んでいますね。

(※2)RPA:(ロボティック・プロセス・オートメーション/Robotic Process Automation)ロボットによってホワイトカラーの単純な間接業務を自動化するテクノロジー

愛宕)職員の人にどうやって仕事をしているのかをヒアリングをし、オンラインに置き換るプロセスを検討しているのですか?

橋本)そうですね。RPAについては、職員にヒアリングを行った上で、RPAに移行ができそうな5業務について、2018年にテスト環境での構築を行いました。2019年には本導入予定です。テレワークは管理職を対象に導入しました。マネジメントを担う管理職自らがテレワークを先駆けて行うことで、市役所全体の働き方が変わっていくことを狙いとしています。一般職員については、窓口対応があるなど、業務の特性が多岐にわたるため、これから実証を行うなど、トライアンドエラーで制度構築を進める予定です。

愛宕)コデアル株式会社社内の状況と似ています。例えば、教える際の手間を省けるようにミーティングの様子などの動画を録画して社内共有しています。ビデオ通話越しの相手に画面を共有しながら説明をする方法など文章や言葉だけでは伝わらないことを動画で伝えています。

橋本)画面共有、とても便利ですよね。役所ではインターネットと業務用のネットワーク環境が別れているので、インターネットを通じて画面共有をするのが環境上難しいんですよね。ただ、そもそもビデオ通話のようなツールを職員が知らない可能性があるので、管理職を対象としたテレワーク研修の際には、民間企業の協力を得て、ビデオ通話を企業とつなぎ、画面上でフリーアドレスのオフィス環境を見学させてもらったりしました。市役所で使用するテレワーク端末は独自の通信環境を構築しています。クラウド環境がとても便利なのはわかっているのですが、使えないのが現状ですね。

生き方から働き方を選べるように。働くことを自由にすることで快適なライフスタイルへ

愛宕)ところで鎌倉に住んでどうですか?

橋本)他の地域にも言えることかもしれませんが、鎌倉は自然豊かで生きやすいなと感じてます(笑)。鎌倉に移住している人も増えていますね。経済的合理性だけでなく、自然や文化など、鎌倉の良さに引かれて、環境を重視して住んでいる人が多い気がします。ただ、フリーランスなど、キャリアを積んだ上で独立し、住む場所を選ぶことができる人が多い印象ですね。だから、仕事が自由になれば、働く場所が東京などに縛られず、住む場所が自由になるなと感じますね。

愛宕)ですよね!だから僕たちも社会課題の改善に取り組めるよう、働くをもっと自由にというビジョンでコデアルを創っています。コデアルユーザーは1万人いらっしゃいますが、エンジニアの方が多く、みなさん働き方を自由にされている印象です。

橋本)エンジニアの方は鎌倉でも多いですね。一方で、働くことを自由にできている人は、まだまだ一般的ではない印象があります。テレワークも普及しつつありますが、まだまだ通勤という障壁があるように思いますね。

愛宕)ライフスタイルって変わるじゃないですか。例えば、子供が生まれると病院、学校などの環境がどうなっているか等、街の見方も家の間取りも変わりますよね。ライフスタイルによって住む場所も変わるし、生活の時間配分も変わるはず。だから、場所と何に一番時間を使うのかを考えて働けるように、チームでコデアルのサービスを作っています。バリバリ仕事して成長したい時期、子供ができて奥さんが大変な時期は落ち着きたい等、働く時間のコミット度合いを調整できるように。

橋本)生き方から働き方を選ぶっていうことですよね。今は少しずつですが、実際に自由な働き方をしている人とSNSでつながれる時代になってきて、学べる場所も多くなっていると感じますね。鎌倉では、イベントやコミュニティで、所属企業としてではなく個人として自己紹介をする人が多いですね。

愛宕)なるほど。コデアルのコは個人からきているのですが、コデアルは登録の際に学歴記入は設けていません。学歴や所属している環境が全てではないし、そこでの判断が本質とは違うと感じているからです。本質は個人で何の価値を提供できているかが大事だと考えています。

橋本)たしかに、そうですね。鎌倉の良いところとして、東京にいる人との関係性を続けやすいという点があります。東京と鎌倉間で約1時間程度の距離感で移動ができるところも気に入っています。

愛宕)そういう場所を選ぶのもわかります。コデアルは基本的にリモートワーク業務が主流ですが、移動のことも考えた上で住む場所を決めている人もいますね。仕事以外の活動も鎌倉で?

橋本)鎌倉では肩書きや立場を超え鎌倉を熱くしていきたい人を全力支援する「カマコン」などコミュニティに参加しています。鎌倉市が事務局を行い、鎌倉でのテレワークを推進する「鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会」(※3)の活動については仕事として行っていますが、民間企業で働き方を自由にしたいという考えの人とプライベートのつながりもあり、公私ともにテレワーク推進の活動を行っています。今回の取材も働き方についてプライベートでお受けしてますが、公務員ではめずらしく仕事とプライベートの垣根があんまりなくなってきているという状況ですね。

(※3)鎌倉の魅力を生かしたテレワーク推進のため、テレワークに関する周知啓発、情報発信等を行う。鎌倉市・民間企業・個人が一体となって、2018年11月に発足。

愛宕)そうですね。個人と組織の関係性で感じるのは、個人が組織にいるから組織の価値も上がって、組織にいる個人も活躍する機会を得られる状況ができていないと関係性が続かないと思いますね。今日はありがとうございました!また、活動の中のお話、聞かせてくださいね。

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