2020.06.03

リモートワーク環境における対話のあり方|とくさん 対談インタビュー

TwitterをはじめとしたSNSで経営と組織に役立つ情報を発信しているとくさんとコデアル愛宕による対談です。

とくさん プロフィール>
日系メーカー、外資系IT企業を経て、現在、外資系ソフトウェア企業にて経営管理・企画を担当。Twitter(@nori76)やnote(https://note.com/noritoku)でも積極的な発信を続けており、最近は、組織心理学や臨床心理学を踏まえた経営における「感情」の側面に関心。cakesにて自らのカウンセリング経験をもとにした「こころを使いこなす技術(https://cakes.mu/series/4295)」も連載。
<愛宕翔太 プロフィール>
働くをもっと自由に。コデアル株式会社CEO。即戦力エンジニア採用のプラットフォーム「CODEAL( http://codeal.work )」運営。Twitter( @shotaatago )、ブログ( https://note.mu/shotar )では、エンジニアの採用やリモートワークを支援するためのノウハウや日々の思いを発信中。

リモートワーク環境における「期待値」の置き方

とくさん)例えばアメリカ企業の場合だと、リモートワークは随分昔から行われていて、間接部門を中心に自宅で仕事をしている人は多いです。それを成り立たせる前提として、役割や達成すべき目標が明確であること、それがメンバーとの間で共有されていることがあります。ここが整っていないと長期的にリモートワークを実装していくのは難しいんですよね。
このアメリカの仕組みは「ジョブ型」と呼ばれていて、一方で日本企業は「メンバーシップ型」が基本です。簡単に言うと、明確に定義された役割に人をつけるジョブ型に対して、人に応じて仕事をつけていくのがメンバーシップ型です。
メンバーシップ型は多様な役割を従業員に担ってもらえることで利点も多いのですが、今回のような状況で、リモートワークが当たり前になってくると困難も発生してきます。役割と期待する成果が明確でないと、普段直接顔を合わせない人を評価するのは難しいですから。

愛宕)事業がどのフェーズなのかで見えているのかで変わってくるとも思います。
ゼロイチでなんとなくこのあたりというのを始めた段階だと役割・期待値を置いたところで機能するのかな?という疑問はあります。

とくさん)そう思います。スタートアップなのか大企業なのか。また、事業のライフサイクルは、成長フェーズなのか、すでに成熟段階なのか。事業規模やフェーズに合わせて、従業員に対してどんな役割や成果を期待していくのかを明確にしておく必要があります。
例えば、ゼロイチ段階のスタートアップであれば、多様な役割を担ってもらうことがやはり必要になります。
大事なのは、何を期待しているのかを明確にし、お互いに合意しておくことなのかなと。

愛宕)大きな企業で固まった事業モデルがある会社からの転職したとき期待値のずれは起きやすいですよね。
何でもやるの期待値の意味が伝えられてない・伝わっていないズレですよね。

とくさん)そうですね。そういうミスマッチは起こりやすいと思います。
何でもやってほしい、と言っても、それは降ってくる仕事をひたすらやってほしいのか、担当する業務を徹底的に深堀りしてほしいのか、など意味合いは変わってきますよね。
そういう「文脈」を明確にした上で、例えば役割や期待する成果の定義を文書化して共有するなどすればミスマッチも緩和されるのかなと。

愛宕)求人と面談のプロセスを見ていて思うのは、求人の際に期待値の明文化ができていないとその時点でずれが生じてしまう。
実際求めるのは幅の広い業務だけど、求人に明記していない。
それによる面談・選考プロセスの複雑化が起きています。
また、適切なタイミングで適切な期待値を伝える難しさも感じます。それをどのタイミングで提示するかというその見極めについてはどう思われますか?

とくさん)まず、求人の時に求める役割と期待する成果を明文化しておくことは前提となりますよね。それが入社後のミスマッチを防いでくれる。
その上で、規模の小さな組織だと、仮に役割が明文化されていたとしても、個々人の「感情の揺れ」が組織全体に広がっていくリスクがあると経験上思っています。つまり、やるべきことは明確に書かれていても、それにどこか納得できない、腹落ちしていない時に、その戸惑いや不満が組織に伝播してしまったり。
この問題への一つの対処策としては、「なぜ」を明確化することが大切ではと思っています。この組織はなぜ存在し、何を目指すのか。こういう本質的な部分でみんなの目線を揃えておくことが重要ではないのかなと。

愛宕)会社規模が100人くらいになるときにミッションは意味を成すのでしょうね。

とくさん)だと思います。そのくらいの規模になってくると、組織規模もそれなりで知らない人が出てくるけれど、先ほど言ったように、500人、1000人といった大組織に比べると、個々人の「感情の揺れ」に全体が影響されてしまう規模でもある。
なので、ミッションを明確にして、それがみんなを束ねてくれるようにするのが大切ですよね。

愛宕)弊社の場合、コデアルというサービスから入社してくれる人が多いのですが、更にメンバーからユーザーインタビュー等を行うことで仕事の共感を得られるという手触り感が大事なのではないかと感じています。

とくさん)お客さんの直接の声を聞くことはとても良いですよね。日本のビジネスにおける良いところは、「現場」を大切にすることで、顧客と直接触れる機会を持つことで、事業の持つ「物語」をみんなで共有して、モチベーションを高めることができると思っています。
最近は「現場主義」という言葉は若い人からは少し敬遠されるかもしれないので、お客さんの生の声を聞くことの面白さをうまく伝えるのがいいのかなと。

 

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スムーズな協議を引き出すコツ

とくさん)村上春樹の『うなぎ説』というのがありまして、2人だけで話してると行き詰まりがちな時に、間に「うなぎ(なるもの)」を置いて、3社間協議にすると不思議とうまくいく、というのがあります。
間に置いた「うなぎ」について2人で話していると、その語り口や表現にその人の個性や思いが表れてくるんですよね。そうすると、2人で直接話し合っているよりも、相手のことがよく分かったり、好感を持てたりします。
例えば、ビジネスに置き換えると、「うなぎ」として、お客様やプロダクトを置いてみるとよいのかなと。
例えば、カシオに勤めている方が、「うちは社員みんなG-SHOCKをつけていて、商品を愛しているんだよね」という話をしていたことをよく覚えています。
つまり「G-SHOCK=うなぎ」で、商品への愛着がカシオ社員としてのアイデンティティを作り出し、また社員同士のコミュニケーションを生み出していく。これは応用の利く考え方だと思います。

愛宕)間に介されているものが人ではないというのもポイントですよね。抽象化された概念であったりモノを置いてみる。

とくさん)うまく行っている事業って間にモノを置いて協議していますよね。

愛宕)確かに僕もコデアルをテーマに協議をしてきました。

とくさん)語り口それ自体にその人の姿が宿ってくると思うんですよね。2者間での会話って、ある種の「お決まりごと」に沿って話していることが実は多いんですが、「コデアルってこうだよね」という語り口にはその人の内面が素直に表れてくると感じます。

愛宕)これまでを振り返ると求職者から見たコデアル、企業から見たコデアル、サービスとして見たコデアル、などなどそれぞれの視座から話を聞きに行っていました。
どこから見ているのか?で見え方って変わるじゃないですか。
例えば、スポーツチームにマスコットがいるのも勝てない監督を攻めないための存在だと思うのですが、意味合いとして近いのかなと感じます。

とくさん)マスコットキャラクターがまさにそうですが、日本人は、コミュニケーションの論理的な面だけでなく、キャラクターを使って感性的な部分を表現するのがうまいと思ってます。

愛宕)構造を考えている人はよく研究して作っていますよね。

とくさん)組織でも、マスコットキャラクターのように、サービスやお客様について語るようにする方がコミュニケーションがうまくいくところありますよね。
ただ、形式的にやろうとするとそれはそれでうまくいかない。「今日はうちの新製品について自由に語ろう」みたいに上司に言われても「はあ?」という感じじゃないですか。

愛宕)無理に雑談はできないですもんね。

とくさん)ですです。あくまで自発的に、自然にそういう話が出てくるかがポイントです。「G-SHOCKの新シリーズ、デザインすごくいいよね」みたいな感じで。
そういう自然な雑談が組織に発生しているかをよく眺めてみるのは大切かなと。

愛宕)自分たち含めお客様たちを見ているとコロナの影響もあり多くの企業が現在リモート環境で働かれています。
弊社の場合「働くをもっと自由に」を掲げたコデアルがテーマになるのですがそればっかりだと面白くない。
なので、同じ本を読んでみたりみんなの興味関心のある「うなぎ」を置いて会話を進めています。

とくさん)それを置いた時にみんなが反応するかで診断できますね。

愛宕)定量指標になる可能性もありますね。
例えばSlackで絵文字をどのようにつけているか?というデータは組織状態を表しているなと感じることが多いです。

とくさん)私もちょっとした変化やリアクションに目を向けることを一番意識しています。
1on1でミーティングするより、共通の話題となる「ウナギ」があった時にどのくらいみんなが反応するか?のほうが分かりやすい。

ミーティングが目的じゃない、目的があるから話し合う

愛宕)1on1の話が出ましたけど1on1はマネージャーとメンバーで行う場合、どんな時に行ったらいいですか?
できるだけ1on1がなくなっていくようにすることが正しい在り方ではと考えているのですが。

とくさん)そうですね。前提として今まで話してきたように目的・役割が明確になっている上で1on1するのは効果があると思います。
1on1を否定はしていなくて、1on1が機能する組織になっているかどうか?を見たほうがいいと思います。
形式的に1 on 1を見るのでなく、別にオフィスの空いたスペースでお茶を飲みながら話すのでもいいと思うんですよね。大切なのは、本音を話せるような雰囲気を作れているのか、またそれを引き出すコミュニケーションができているのか、というところですから。

愛宕)本当に1on1したい人とできているかどうか?をまず見るということですね。

とくさん)困ってそうだから1on1しようというのはワークしませんよね。きっと本音を言わないと思う。
まず何がしたいのか?ですよね。別に1on1がしたいわけじゃない。

愛宕)1on1は一つの手段ですからね。

とくさん)例えば、仕事で困っている部下を助けたいならば、本人だけでなく周りの人の話も聞きつつ、その問題解決を支援する方法を提示してあげることが何より大切ですよね。1on1という形式の前に何が求められているかをよく理解するのが大切だと思います。

愛宕)リモートの1on1はその状況が顕著に現れていて、まるで体育館の裏に先輩から呼び出されたような感覚があります。(笑)

とくさん)そうなんですよ(笑)。しかも今はリモート環境ですからね。いきなり1on1しましょうと上司に言われたらドキッとしますよね。

愛宕)なので1on2にしてみたり、もともと持っている「支援したい」という前提を置いて話すようにしています。

とくさん)そういうやり方が適切ですよね。OKRもそうだと思うんですが、ツールありきはやはり良くない。
「なぜそれをやるのか?」という目的が明確で、それが共有されていることが大切で、とりあえず1on1やOKRを導入してみよう、というやり方だとうまくいかない時が多いと感じています。

愛宕)現在、「ゆっくり急げ」というワードが社内でよく出ています。
要はいきなり行動を起こして1on1やってみよう、OKRやってみよう、目的の共有はない!となったら全く何をやっているかわからないですよね。
目的をまず話し、ツールに頼らず個と向き合う。
向き合って話して、そのあとにツールという手段が入ってくるイメージがあります。

とくさん)そのとおりだと思います。まずは話し合ってみて、その問題解決にうまく役立ちそうだから、と手法やツールを導入してくのが大切かなと。
というのも、世の中で有名になったツールも、最初からその形だったわけではなくて、なにか問題があって、それを解決しようとする試みから生まれてきているわけですから。
なので、それを忘れて、ツールありきの使い方をしてしまうとうまくいかないと思います。

愛宕)googleも世界中の検索ができるようにしようという大きな目的からOKRが発生しているわけですもんね。

とくさん)形式的にやらないことが大切ですよね。ちゃんと相手の状況を見ることから始めべきだと思います。

cakesでも「こころの使いこなしかた」をご紹介されています

人に寄り添った制度作りを

愛宕)相手に向き合うという点で言うと、様々な雇用形態、ライフスタイルの人がいる中でより多様な働き方になってきているので画一的な方法では難しくなってきています。

とくさん)事業規模・組織規模により変わる印象がありますね。
規模が小さい時は「寄り添える」と思うんですよね。個々人の事情やタイプに合わせて近しい関係をきちんと作っていくことが大事と思っています。

愛宕)それはだいたい何人くらいの規模間ですか?

とくさん)事業のタイプにもよると思いますが、一般的に30-50人くらいでしょうか。そのくらいの規模であれば、ひとりひとりに寄り添いながらコミュニケーションを作れる感じがあります。
一方で100人を超えてくる規模になると、どうしてもそれでは回らなくなるので、仕組みや制度が求められますよね。同時に企業文化も作り上げていく必要がある。この両者をいかに整えていくかが成長のカギになってくると思います。

愛宕)制度だけ作っても駄目だという思いはあって、根本にある考え方がないと意味がない。
行動指針から制度を考えられる側面もあると思うので、つながりの密接さは感じます。

とくさん)そうですね。根本となる思想が明確になっていることが大切かなと。例えば、日本の大企業も昔はベンチャー企業だったわけで、成長していく過程で従業員のモチベーションを高めるために福利厚生を手厚くしていったわけですよね。
その歴史が忘れられて、福利厚生がある意味「既得権益」化してしまうと、もともと持っていたメッセージが忘れられて形骸化してしまうんですよね。

愛宕)手段が目的化して、そもそもなんで福利厚生つくったんだっけ?ということになりますね。

とくさん)手段が当たり前になって目的が見失われると何の意味もなさなくなってしまう。

愛宕)相手への思いやりや先人への思いを目的として捉えることは大事ですね。

これからの日本、リモートワークで大事にしたいこと

とくさん)いまの世界を見回した時に、日本は悪くない位置にいると思っているんです。
BtoCだけでなく、BtoBの有力スタートアップも増えてきていますし、その経営思想や方法論は欧米や中国といった世界のスタートアップのそれとあまり変わりません。こうした企業が増えると、それに続こうとするスタートアップも増えていくので良い流れですよね。
また、日本人特有の配慮や優しさは強みになると思っていて、そういう特性を備えたスタートアップが増えてきているのも期待が持てますよね。
私が知り合ったスタートアップの方も、高い志と強い情熱を持ちながら、人間的な穏やかさを備えた方が多くて、なにか新しいことをやる上で日本は良い場所だなと思っています。

愛宕)Sonyの盛田さんのように金融ゲームに埋没せず海を渡って勝負するというメンタリティとマインドセットの生き様と恰好良さを持った先人がいたように、わびさびや日本人的な世界観って素敵ですよね。

とくさん)そう思います。また、そういう価値観を持った組織が増えると、いまの若い人も魅力に感じてくれるし、さらにいい方向に進んでいくと思います。

愛宕)昔のように一律のルールはもうない時代ですからそこにこだわるとこれからの時代は厳しいですよね。

とくさん)はい。昔のサラリーマン社会のように、「部長や課長はこう振る舞うもの」といったお作法がはっきりしていた時代はある意味楽だったと思うのですが、今はそういうお作法が通用しにくいです。
個別の文脈や人にきちんと向かい合うことが大切ですし、それはリモートワークが当たり前の環境ではなおさら意識すべきポイントですよね。

愛宕)単にお金を稼ぐだけじゃない、渋沢栄一が論語と算盤を伝えているように、昔から伝えられ続けている社会的意義がありますよね。
コデアルであれば「働くをもっと自由に」といったような会社のビジョンがあって、そこに共感する個人が集まってくる。
そのビジョンに近づけば近づくほど心理的報酬・金銭的報酬の両面から働く個人が満たされるといった構造を考えることが経営であり、仕組みを伝えて行くことが大事なのだなと今日のお話を通して感じました。
それはもちろん、単純ではなく複雑で、大変なことなのですけれども。

とくさん)はい。キレイごとでない形で、資本主義と公益的な部分をうまく調和できないかなと思っています。
例えば、ソフトウェアを使いこなすことで、収益性が高く、価値をレバレッジした事業を作ることができます。そこで得たリソースをもとに、公益的なものにつなげていく…こんなイメージです。

愛宕)やっぱり社長の在り方が一番組織に伝わりやすいですよね。
社長ができなければ誰も実践できないだろうから、行動指針は自分から率先して行うべきだと考えています。

とくさん)その意味で任天堂で社長をされていた岩田聡さんの言葉を集めた「岩田さん」は最近も何度も読み返している本です。
まさに今日話してきたことを具現化された方だったと思います。

愛宕)僕も読んでます。ほぼ日の糸井重里さんも書かれていますよね。

とくさん)世界中の子どもから大人までを楽しませるゲームを作ることに集中し続けてきた任天堂という素晴らしい会社を、岩田さんのような人格と優しさを備えた経営者がリードしてきた、というのは私にとってひとつの理想形になっています。

愛宕)現場の話から抽象的な話題まで今日はいろいろとお話ありがとうございました!

とくさん)ありがとうございました。

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